「『週刊金曜日』2000年9月29日(No.333)号」より(転載許可済)


医療大麻が難病を救う
                 マイケル・ネンディック
                   訳・鳥居祥子



「ダメ!ゼッタイ。」と使用を禁止されている大麻(マリファナ)は、特定の病気治療には副作用もなく極めて有益な医療薬であることが明らかになりつつある。
日本でも危険な麻薬だとされている大麻を医療に使えるように法律の改正を求める市民運動が地道な活動を展開している。


**


 もし小笠原健次さん(三四歳)が別の時代に生きていたら、病状改善に必要なその薬は自由に使うことができたかもしれない。その薬とは大麻(マリファナ、ヘンプ、カンナビスとも呼ばれる)。小笠原さんは、闘病生活にきわめて有益なこの薬草を患者が合法的に入手できるようにするための運動を展開している。大麻の医療使用の解禁をめざす非営利団体「JAMM-Japan Association for Medical Marijuana-医療大麻を考える会」の創始者の一人でもある。


「大麻は麻薬じゃないの?」

 小笠原さんは五年前にMS(Multiple Sclerosis-多発性硬化症)と診断された。神経と膀胱の調整がきかなくなり、猛烈な痛み、手足の感覚が麻痺するといった症状が出た。寝たきりと車椅子の生活が三年間続いた。処方された薬である程度改善される症状はあるものの、副作用は大きかった。ステロイドは体重を増加させ、骨の脆弱化による頻繁な骨折を引き起こし、気分の激変を誘発して鬱病を併発させることも多い。小笠原さんは自殺したMS患者を何人も知っている。
 車椅子生活をしていた頃、彼は、担当医の一人から、MSには大麻が効果があり、医療大麻の研究が進んだハワイにいってみたらどうか、と勧められた。「大麻って麻薬なんじゃないか」と懐疑的だった小笠原さんが試してみようと考えるほど、病状は深刻だった。ハワイではお医者さんから”非公式に”大麻を提供してもらい三週間にわたり、一日に三度吸引した。その効果は驚異的で、ぜひ世間に知ってもらいたいと考えるようになった。
「症状の緩和はすぐに現れました。車椅子でハワイに行ったのに、三週間後には歩いて帰国できたんです」
 寛解(注)と悪化をくり返すのがMSの特徴であるが、大麻がMS患者にとって有益な薬草であることを確信した。「痛みを和らげてくれますし、気分的にも楽になります。他の医薬品で体験した副作用は全くありませんでした」。
 このような体験は小笠原さんに限らない。大麻は世界中で何千何万の重病患者の症状緩和に大きく貢献している。
 大麻に関するニ冊の本を著しているハーバード大学医学部教授グリンスプーン博士は大麻がさまざまな疾病の症状緩和に役立つことに注目している。ガンの科学療法やエイズ治療薬の副作用である悪心や嘔吐の抑制、エイズ患者の体重減少抑制、てんかん発作や緑内障、多発性硬化症、脊髄障害による麻痺、四肢麻痺の症状緩和に有益だという。大麻には致死量がないこと、依存性がないことは多くの専門家が認めている。


全面禁止の日本の大麻

 日本ではモルヒネやコカインは合法的な医薬品と認められているが、大麻は禁止されている。大麻の所有・供給・使用はアメリカ占領軍によって四八年に大麻取締法として非合法化され、現在まで続いている。
 大麻の摂取は、それが医療目的で医師が大麻を処方することも禁じられている。この法律改正を目的に結成されたのがJAMMである。
 ヘンプ(大麻)食品を使用したレストランやヘンプ製品ショップのオーナーであり、麻に関する数々の著作のある前田耕一(五〇歳)さんもJAMMの創立メンバーの一人である。大麻が医薬品としてきわめて有益であることが世界各地の研究で証明されていると指摘する。日本でも痛みや喘息、不眠症に効く安全で自然な薬草として、古くから利用されてきた。
 大麻は日本の歴史に深く根ざしている植物である。一万年前の縄文時代には繊維用に栽培され、伝統的には清めのシンボルとして尊重ウれてきた。
 現在は政府によって栽培を許可されている農家などが多少存在するとはいえ、それ以外の国民に対する日本政府の態度は「ダメ。ゼッタイ」に終始しており、大麻所持は最高五年の禁固刑である。しかし、厚生省が大麻の肉体的、精神的な薬効に関する調査を行ったことはない。


肯定に傾く海外の現状

 海外では大麻の有益性を認める研究が次々と出ており、住民投票や法定で、現状維持を主張する政府に揺さぶりをかける動きが出始めている。
 政府から資金を得てまとめられた報告書にもとづき、英国では上院科学委員会、米国では医学研究所(IOM:Insutitute of Medicine)が医療大麻の開放を求める推奨文書を出したが、両政府ともそれを拒絶した。
 医師の診断書があれば大麻が使用できる州があるとはいえ、米国では連邦法を根拠とした逮捕例が後を絶たず、医療薬を拒否されて亡くなった患者も少なくない。
 英国では国民の大半が大麻の医療使用に賛成しており、医療目的で大麻を所持し逮捕された人々に陪審員が無罪判決を下すという現行の法律を拒否する状況が生まれつつある。スイスやオランダでは少量の大麻所持はすでに刑罰の対象からはずされている。
 本年七月三一日には、てんかん患者の訴えを受けたカナダのオンタリオ最高裁が、医療目的の使用を許容しない大麻所持法そのものが違憲という見解を示し、一年以内に法改正しなければ大麻所持法が無効になるという裁決を下した。
 世界中の市民、患者、法律家、裁判官、医師、科学者が大麻の医療使用の合法化を求めているにもかかわらず、大部分の国の政府はそれを認めようとしないのはなぜだろうか?
 米国で大麻が取り締まりの対象となったのは三七年。暴力、狂気を引き起こす危険な薬物をして宣伝された。そのシナリオに根拠がないことが明らかになった今も「神話」は引き継がれている。マスコミ、後援者から「ドラッグに甘い」と見られることは、ほとんどの政治家にとって、政治生命に終止符をうつ自殺行為に等しいからだ。


大麻の有用性を知らせたい

 JAMMが結成されたのは昨年。MS患者とその家族、薬剤師、ジャーナリスト、作家、市民団体活動家、弁護士、サラリーマン、そして前述のレストランオーナーといった活躍する世界が違う個人が集まった。月に二回ほどの研究会を重ねるにつれ、治療薬としての大麻の価値に確信を持つようになった。「だから私達は、必ず法律を変えてみせると決心したのです」と前田さん。
 JAMMの中心になっている戦略は、一般市民の大麻に関する誤解を解くことだ。特に患者や医療関係者の大麻に関する認識が変われば、医療関係者が患者側を代表し、立法者に法律改正を申し立てるようになるはずだ。
 医療大麻の有用性は医師の間でもほとんど知られていない。だが、医療大麻に関する研究について話すと、強い関心を示す医師は少なくない。
 大麻取締法の緩和が大麻の乱用につながると考える人もいる。しかし、医学面でのモルヒネやコカインの使用は非合法な乱用につながっていない。
 患者は効果があるすべての医薬品を手に入れる権利があるはず。JAMMでは、患者が大麻を医療に使用できる権利を尊重するよう政府に求めている。もし、医師による研究という道さえ開けば、法律は変わるはずだ。
 小笠原さんは、JAMMを正確な情報を提供するツールにして大麻のイメージを変えなくては、と考えている「自分の国で、このきわめて有益な医療品を摂取したいと切望しています」。
 JAMMでは医療大麻についてもっと知りたいという方々からの問い合わせを歓迎しており、ボランティアや寄付、会員を募集している。


***


JAMM(医療大麻を考える会)連絡先
〒202-0015 東京都保谷郵便局私書箱7
TEL/FAX 0424-63-4589
http://www.iryotaima.org/
Mail head_office@iryotaima.org

米国政府の一九九九年Institute of Medicine Study の詳細は以下で閲覧できる(英語のみ)
http://www.mpp.org/science.html
厚生省の「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ
http://www.dapc.or.jp/info/index-i.htm

(注)病気の症状が軽減した状態


********



Michael Nendick・英国人(British)。中学/高校英語教師。東京在住。
とりい さちこ・翻訳家。「学校は義務じゃない」共訳(明石書店)、「国連人権高等弁務官:教育への権利に関する特別報告官声明」(「いんふぉめーしょん」・子どもの人権連No.67)。英国在住。




 『週刊金曜日』へのご連絡はTEL 03-3221-8521まで




事務局より
週刊金曜日に掲載された上記の記事は、大麻の有用性と肯定に傾く海外の状況、および全面禁止のままの日本の状況が明快端的に指摘されており、多くの読者に強い関心と既成概念に対する疑問を抱かせたようです。
発売の翌日には20件を超える電話とFAXが寄せられ、現在までに90通を超えるE-Mailが寄せられました。
励ましや支援の声だけではなく切実な現状を訴える患者さんからの問い合わせもあり、反響の大きさに驚くと同時に当会の活動の重要性を再確認させられました。
常に問題意識を喚起し提起している「週刊金曜日」に掲載されたことは、当会にとっても大きなポイントと言えるのではないかと思っています。
著者のマイケルネンディックさん、訳者の鳥居祥子さん、すぐに転載許可をくださった「週刊金曜日」の方々に心より感謝いたします。